さんま

  @分類学的位置、形態と系群

サンマ(Cololabis saira)はダツ目サンマ科に属する沖合性の表層魚である。体は細長く,両顎はくちばし状となり,下顎は上顎より突出する。背鰭の後方に5〜6個,尻鰭の後方に6〜7個の小離鰭がある。体の背部は暗青色,腹部は白色で,鰓把数(下枝)は3538本,脊椎骨数6268個である。胃を欠き,腸が短くて直走する(1)

寒帯域及び熱帯域を除く北太平洋とその沿海の全域にわたって分布し,系群としては,北西太平洋系群,中央太平洋系群,東部太平洋系群の3つが考えられてきたが(2),現在のところ,遺伝学的な分析からは,明瞭に分離された系群の存在を裏付ける結果は得られていない。近年の沖合域における分布調査からも北西太平洋から中央太平洋にかけての分布は連続的し(3),独立した系群の存在は疑わしい。

  A発育・成長・寿命

卵は水温1025℃の範囲でふ化することが確認されており,この範囲では水温が高いほどふ化日数が短く,20℃では10日前後である。(4)飼育実験では,仔稚魚の成長は水温が高い場合に良好であると報告されている(5)。ふ化直後の仔魚の全長は6.226.74mm程度で,体は円柱状で細長く,背部は濃青色,腹部は青白色である。全長23.0mm前後(稚魚期)で各鰭の鰭条や基本的な体形が完成する(6)

成長は耳石日周輪の解析から,ふ化後67ヶ月で体長(肉体長;下顎先端から尾柄肉質部末端まで)20cmに達することが知られている(7),(8),(9)。その後の成長速度は鈍化するようであるが,成長するにしたがって耳石日周輪の計数が困難になるため明確な結論が出ていない。しかし,漁期中に漁獲される大型魚(体長29cm以上)の耳石には透明帯があることが確認され,これは越冬期に形成されることから(10),大型魚の年齢は1歳以上,中型魚(28cm未満)より小さいものの年齢は0歳であると推測されている。また,透明帯が2本以上あるものが少ないことなどから,寿命は概ね2年程度と考えられている。体長は通常3234cm程度までであるが,まれに40cmを超えるものもある。


 

B成熟・産卵

 

北西太平洋沖合域における調査結果からは,実質的に産卵に参加するのは27cm以上の中型魚からであろうと推測されているが,日本海や駿河湾などでは体長21cm程度で成熟した卵巣を持つ個体が報告されている4)。飼育実験では孵化後6ヶ月程度で産卵した例があり,最小成熟年齢は0.5年程度と考えられる(11)

北西太平洋においては,産卵は夏季を除いてほぼ1年を通じて行われており(12),主産卵期は冬季と推定されている。産卵場は黒潮域から黒潮続流域が中心と考えられているが,秋季や春季には黒潮北側の混合域でも広く産卵がみられる(13)。また,産卵場は沿岸域に限定されている訳ではなく沖合にも広がっており,北米西岸までほぼ連続しているが3),その実態ははっきりしない。日本海や東部北太平洋では,産卵期は春季〜初夏であると報告されている(14),(15)。このように産卵期が長期間にわたり,また海域によって盛期が大きく異なることから,成熟の開始や進行を制御する条件についてはよく分かっていない。飼育実験などによれば,水温15℃以上で性成熟が進み,産卵を行う(11)

 産卵は多回産卵で,大型魚の1回当たりの産卵数は平均10003500粒で,3〜6日おきに産卵を繰り返し,産卵期通算では概ね30回前後の産卵を行うと考えられている(16),(17)。大型魚の卵巣重量は,未熟な時には0.40.6g程度であるが,産卵盛期には10g以上に達する4)。北西太平洋では,南下回遊の開始(初秋)から成熟が徐々に進行し,大型魚から先に成熟する。冬季には中型魚も大半が成熟するものと想定されるが,北上期(春季)に入ると生殖腺は徐々に退縮し,親潮域(夏季)では未熟な状態に戻ると考えられている。(16),(17)

卵はやや楕円形で,纏絡糸(てんらくし)で流れ藻などの浮遊物に巻きつき,多数の卵が絡み合って葡萄状をなす典型的な付着卵である。卵の長径は1.72.2mm,短径は1.52.0mmである4)。産卵行動については,確かな報告は無いが,水槽での観察などによると,産卵直後に付随してきた雄による放精が行われ,受精すると考えられる。なお,浮遊物のほとんど無い海域でもふ化直後の仔魚が見られるが,このような海域では卵がどのように産み出され,ふ化しているのかは不明である。

 

  B食性,栄養動態,及び被食関係

仔稚魚は,コペポーダのノープリウス幼生など微少な動物プランクトンを捕食し,成長とともにしだいに大型の動物プラントンを捕食するようになる。成魚は,Calanus plumchrusなど大型コペポーダやツノナシオキアミを捕食し,餌生物も多様となる(18),(19),(20)。主な索餌時間帯は,成魚の場合で日没後数時間程度とされている。

春季に北上を開始すると,動物プランクトンの濃密な混合域・親潮域に向かい回遊し,親潮域内でもプランクトン濃密な海域に多く分布する傾向がある(21)。産卵に向かう南下期には北上期とは逆に動物プランクトンの分布密度の低い黒潮域へ回遊を行う。

摂餌量は春から夏にかけて増加するが,南下期(秋季)は減少し,冬季は再びやや多くなる。体内に蓄積される脂肪の量は摂餌量の最も多い夏季(親潮域)に最も高く,南下期にはしだいに減少して,産卵盛期である冬季に最も低くなる16)。冬季は環境中の動物プランクトン量が少ないにも関わらず比較的多くの餌を摂る傾向があり,これは産卵に要するエネルギーを確保するために活発な摂餌活動を行うためであると推測されている16)。冬季には,体内に蓄積されている脂肪の量が既に低くなってしまっているので,餌環境が産卵の質に大きく影響を与える可能性が示唆されている16)

サンマを捕食する動物は,サバ類,さけます類などの中位の捕食者からサメ類・鯨類などの高位の捕食者にまで及んでおり(22),(23),海鳥も盛んにサンマを捕食することが知られている(24)

 

   C分布回遊

垂直分布と日周深浅移動: 仔魚は昼夜に関係なく,少なくとも水深20cm以浅の極表層で生活するが,稚魚になると日周深浅移動を行うようになり,夜間には極表層に浮上し,昼間にはやや深い層に沈むようにな(25)。親潮域の水深別流し網調査では,昼間の成魚の分布水深は表層から10-15m程度までであることが分かっており(26),成魚でも主に水深20m以浅に分布する典型的な表層生活者であると判断されるが,冬季,黒潮域での分布水深はよく分かっていない。 

地理的分布と回遊: サンマは日本海・オホーツク海,北太平洋の亜熱帯水域から亜寒帯水域にかけての非常に広い海域に分布している(27)。棲息水温は,7−24℃に及ぶが,10-20℃の水温域に多い4)。また,夏季には北方へ回遊するため棲息水温は低くなり(概ね15℃以下),冬季には南方へ回遊するため棲息水温は高くなる(概ね15℃以上)。近年行われた中層トロール調査の結果によれば,北西・中央太平洋では,初夏には東経155180度付近の沖合域に分布が多く,日本近海には少ないようである3)。北西太平洋においては,サンマは大きな反時計回りの回遊パターンを形成している。秋から春季にかけて発生した仔稚魚は黒潮や黒潮続流によって東へ輸送されながら,春季の表面水温の上昇とともに親潮水域へ向けて成長しながら北上する。一方,秋季になると親潮水域の表面水温の低下とともに南下を開始し,冬季には主産卵場である黒潮水域に達する。この時は親潮に沿って南西方向に回遊するため,北海道・東北の太平洋側沿岸に回遊経路ができ,漁場が形成される17)

秋から春にかけて産まれた仔稚魚は,秋季には体長2028cmの中・小型魚に成長し,その一部は中型・小型魚(当歳魚)として千島列島中部〜本州房総半島の沿岸〜沖合域で漁獲対象となる(17),(28)。その後黒潮域で越冬し,一部は産卵に加わる。これらの当歳魚は春季には1歳魚となって再び北上回遊を行い,大型魚となって親潮域に達し,秋季には再び南下途上で漁獲対象となると推測されている。しかし,その一部は漁期に入る前に斃死する可能性もあると言われており,0年級と1年級の関係に関しては,まだ未解明の部分が多い。南下した大型魚は,冬季には黒潮域へ回帰して産卵後に死亡するものと考えられる。

中央太平洋・東部太平洋・日本海などに分布するサンマの回遊については断片的な報告があり,(14),(15),(29)。基本的には春季に北上し,秋季に南下するパターンで回遊しているものと見られる。オホーツク海に分布するサンマのほとんどは,北西太平洋を北上した当歳魚が夏季に千島列島の海峡を経由してオホーツク海に回遊したものである(30)。初秋にはオホーツク海中南部に広く分布するようになるが(30),その後急速な表面水温の低下により南下し,北海道のオホーツク海沿岸で漁獲される。晩秋には,一部低水温のために斃死するものもあるが,他は南部千島列島の海峡から太平洋へ戻るものと見られる。


  D主要漁業と漁獲の動向

我が国では,サンマはその殆どが南下期を対象に北海道〜三陸の沿岸〜沖合およびオホーツク海沿岸において主に棒受け網(一部は流し網)で漁獲される。また本州中部以北の太平洋沿岸では,北上群を対象に定置網による漁獲がみられる。我が国のサンマ漁獲量は棒受け網の導入にともない1950年代の前半から急増し1960年頃には年間50万トン前後に達した(32)。しかし1960年代中頃から減少に転じ,1969年には約5万トンにまで落ち込んだ。その後漁獲は回復に向かい1980年代後半から1990年中頃にかけては2131万トンの比較的高い水準で安定していたが,1998年以降は再び年々の変動が大きくなっている2)。また,ロシア,韓国,台湾なども棒受網で漁業を行っている。


  E資源動向と資源管理

サンマ資源の場合,前述したような漁獲量の長期的な変動は資源量の変動を反映したものであり,約30年の周期で大きな資源変動を繰り返すと言われている(33)。サンマの資源変動は環境の変動によるところが大きく,漁業の影響は比較的小さいと考えられている。特に,黒潮続流域の表面水温が高い場合やエルニーニョの起こっている場合に大型魚の資源豊度が高いと言われており大規模気候変動が資源豊度に影響を与えている可能性が指摘されている(34),(35),(36)。サンマは北西太平洋系群を対象に1997年から我が国200海里水域内での漁獲可能量(TAC)が設定されている。2000年までは調査結果に基づく漁場外の分布を考慮した資源量指数を棒受け網の漁具能率で除して資源量を推定してい(37),(38)2001年以降は,中層トロールを用いた掃海面積法で資源量推定を行うとともに(39),環境要因(表面水温)を変数に取り込んだ非平衡プロダクションモデルにより資源評価を行っている(3) プロダクションモデルの適用の結果では,近年のサンマに対する棒受け網漁業の漁獲努力量はMSY水準に達しておらず,資源は漁獲に対して余裕がある状態であると判定されている。また,中層トロールによる資源量推定結果では,沖合域には膨大な未利用資源があることが分かっている(3)。しかしながら,資源が変動期に入っていること,近年は,外国(ロシア・韓国・台湾など)の漁獲量が増加していることなどから(3),今後のサンマ資源と漁業の動向には十分注意を払う必要がある。また,我が国の棒受網漁業では,最近魚体分離機の導入による中・小型魚の選別投棄の問題が指摘されており,今後の動向と資源への影響について注目する必要がある(40)

 

  Fその他

 

サンマには外部寄生虫として,体長5-6mmの卵円状の背甲を持つサンマウオジラミ(Caligus macarovi)や体長100mm以上に達する紐状のサンマヒジキムシ(Pennela sp.)がよく見られる(4),(40)。また,消化管内には,橙色の長さ20-30mmの鈎頭虫の一種Echinorhynchus sp.の寄生が見られる。これらの寄生虫のサンマに与える影響はよく分かっていないが,深刻な影響があるとは考えられていない。また,内臓にはアニサキス(Anisakis simplex)の寄生が見られることがあり,生食した場合にこの寄生虫が胃壁などに穿孔して激しい腹痛を起こすことがある。


 独立行政法人水産総合研究センター 東北区水産研究所八戸支所 資源生態研究室より

 

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